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〈2〉【 anna 1 】*
①
「それで食事行ったの?」
千夏は少しだけ頷いた。
「なに食べに行ったの?」
『天ぷら』
「天ぷら?」
『カウンターで揚げてくれる店。バンドのメンバーの実家みたいだった。』
私の方を見ずに答える。
最初からわかってたから。
一目惚れしてたんだよ。声に。
だからそんな風に恥ずかしそうにしないでよ。
千夏はわかりやすい。
ちょっとキラキラして見える。少し微笑んでいる風にも見える。心が満たされていることが手に取るようにわかる。そんな様子がちょっと羨ましい。
商社に勤める4歳上の藤村と付き合い出して、もうすぐ半年になる。
私は千夏みたいに藤村のことが好きなのかな。
好きだ好きだと言われるのが好きだ。綺麗だとか魅力的だとか、そんな褒め言葉を繰り返されると嬉しくなる。そして落ちてしまう。
今までの人生で、自分から男性を好きになったことは一度しかない。ボスだけ。
師匠でもあるボスは、私より20歳も年上だったし、家族もいた。
もちろん最初は仕事を学ぶために門を叩いたけれど、その才能と感性にいつのまにか夢中になっていた。
迫ったのは私の方だ。
最初は拒まれた。それが余計に刺激になった。
初めての相手ではない。
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