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〈3〉【 chinatsu 2 】
①
アンのことは心配だったけど、多分、例の商社マンと何かあったんだろう。今回の人は結構続いてたから、大丈夫と思ってたんだけど。
前にクラブで会った時は、アンの友達だからって私にも優しかったし、なんか紳士だった。
でも、ああいう人が、本当にもてるんじゃないのかな。なんか完璧すぎて私は好きじゃないけど。いっつも緊張してなきゃいけない気がするし、見るからにできる営業って感じの目って怖い。
普段からギラギラしたエネルギッシュな人って苦手だ。
母と離婚したあと、交通事故で亡くなった父のことを思い出す。静かな人だった。
働きながら学生時代の仲間と吹奏楽団をしていた。
テナーサックス担当の父は、クラリネット担当の女性といなくなった。
母は音楽が好きでなかったから、元々合わなかったのかもしれない。
家で練習ができない父は、よく私を連れて車で河川敷に行った。
父のテナーサックスの音が好きだった。
太陽の光をキラキラ湛えて揺れる川面を見ながら聴く、テナーサックスの音。
映画を観ているようだった。スクリーンの中に、自分が入っている気がしていた。
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