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「先生。おはようございます」
僕はとりあえずそれだけ言ってみた。僕の作り笑顔はとてもぎこちなかったと思う。
「あれ? 君、充じゃないのか?」
初老の男は禿げ上がりそうな白髪頭をかきながら、首をかしげた。
「もしかして、詩織じゃないよな?」
彼は僕が充ではなく、詩織ではないかと疑いはじめてから、露骨に嫌な表情をした。詩織が主人格になった時、病院にずいぶん迷惑をかけたのだろうと簡単に予測できた。
「僕は充でも詩織でもありません。僕はハジメです」
僕はできる限り丁寧で、相手を安心させる口調で伝えた。彼は口をあんぐりと開けて驚いていた。ほんとうにこの男は医者なのか? いかにも医者のような格好をしているが、詐欺師が変装をして、下手な芝居をしているようにも見えた。
「君がハジメか! よかった。よかった。やっと君に会うことができた。充にはもうすぐハジメと会えることができるとは言われていたんだが、それが今日だったのか。だから診断の予約を急にいれたんだな。君には聞きたいことが山ほどある。なんせ、君はわたしの待ち焦がれた恋人のようなものだからな!」
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