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6:本心
「ドナーが見つかりましたよ。」
さらに半月後、先生が私に告げた。
「……そうですか。」
いろんな事に疲れ、呆れていた私への朗報は、気休めでしかなかった。
「お父さん、検査の結果を見て涙を流して喜んでいましたよ?良かった……これで娘を助けてあげられる……って。」
その時の私は、どうしてお父さんが泣いて喜ぶのかが理解できなかった。
(来ないでって言ったら、本当に来ないほど放っておいたくせに……。)
「じゃぁ、手術まで穏やかな気持ちでいたいから、お父さんの話、これから一切しないで下さい。」
私が先生にそう言うと、先生は何かを言いかけた気がしたが、すぐにその言葉を飲み込み、
「手術は成功させますよ。最高のドナーを見つけましたから。手術、1週間後に行います。」
と、静かに出ていった。
そして1週間後。
手術の日。
「ひまわりさん、行きますよー」
明るい看護師さんにストレッチャーを押されて、手術室へ入る。
別にひとりで死ぬつもりだったから、何も怖くない、
……と思っていたけど、やっぱりひとりの手術室は、少し怖い。
「ねぇ……」
思わず、先生に声をかけていた。
「どうしました?」
「私……死ぬかもしれないから、言っとくね。」
先生は大丈夫って言ってたけど、生まれて初めての手術。何かあったら、と思うと話さずにはいられなかった。
「お父さんに……ちょっと酷いこと言ったかも。……私が死んだら、かわりに謝っておいて……」
私が死んでも、お父さんは楽になるから別にいいだろう。でも、あのときの、夕焼けの日のお父さんの涙は、正直キツかった。
「麻酔……打ちますよ。」
先生は何が可笑しいのか、笑いながら私に言った。
「謝りたいなら…………」
隣に、今回肝臓の半分を提供してくれる、ドナーのストレッチャーが並んだ。
「……手術が終わったら、自分の口で、言ってくださいね。」
微睡みかけながら、隣のドナーの顔を見る。
「頑張れ、ひまわり!……絶対に良くなるから!肝臓でも心臓でも、血液でも全部やるから!良くなってくれ……!」
もう眠くて。
視界はぼんやりしていて、隣の人の顔は見れなかった。
でも、
お父さんの声が聞こえた、気がした。
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