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3:衝突
それは、唐突だった。
入院して半月経ち、病院生活にもだいぶ慣れた。
そんな夜、少しだけ喉が渇いたので、ロビー脇の自動販売機まで、飲み物を買いに行った。
「……お父さん?」
ロビーの長椅子に座っていたのは、お父さんと、私の事を診てくれている先生だった。
思わず、物陰に隠れてしまう。
こちらからは、二人の会話は聞こえない。
でも……
お父さんが、泣いていた。
先生が、お父さんの肩に手を置き、何か励ましているように見えた。
それで、何となく、私は悟った。
「そっか……私は死んじゃうんだ……。」
胸が……心が軋んだ。
そのあと、どうやって病室に戻ったのかは覚えていない。
喉は渇いたままだったが、何も飲む気にならなかった。……というより、驚きすぎて何も買っていない。
その夜は……眠れなかった。
それから、お父さんは頻繁に病院に来るようになった。
病室にもちょくちょく来て、私に声をかけてくるようになった。
そんなお父さんが、私はとても嫌だった。
「ひまわり?……聞いてる?」
上の空の私に、お父さんが問う。
それが、引き金になってしまった。
「お父さん……仕事は?」
「いまは、ひまわりと話をしていたいんだ。」
「どうせ……私が死ぬからでしょ?」
お父さんの表情が、凍りついた。
「どうせ私がもうすぐ死んじゃうから、最期に父親として接しようってだけでしょ!……授業参観も、運動会も文化祭も……来なかったくせに!こういう時だけ父親面、しないでよ!!」
「ひまわり……お父さんはそんなこと、思ってないよ?」
困った顔で、ひきつった笑顔で……お父さんは言う。
「うるさい!私には最初からお父さんなんていない!……もうすぐ私は死ぬんだから!ひとりで死んで、勝手にみんなに忘れられるんだから!……もうほっといてよ!」
言いたいことを、父にぶちまけた。
━━パンっ━━
次の瞬間。
私の左頬に衝撃が走った。
それからじわじわと、痛みがついてくる。
「死なせるわけないだろ!……ひまわり、お前は絶対に、死なせないよ!!!」
振り絞るように叫ぶと、父は勢い良く部屋を出ていった。
私は……唖然とした。
お父さんに殴られたのも、怒鳴られたのも……
この日が、生まれて初めてだった。
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