3:衝突

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

3:衝突

それは、唐突だった。 入院して半月経ち、病院生活にもだいぶ慣れた。 そんな夜、少しだけ喉が渇いたので、ロビー脇の自動販売機まで、飲み物を買いに行った。 「……お父さん?」 ロビーの長椅子に座っていたのは、お父さんと、私の事を診てくれている先生だった。 思わず、物陰に隠れてしまう。 こちらからは、二人の会話は聞こえない。 でも…… お父さんが、泣いていた。 先生が、お父さんの肩に手を置き、何か励ましているように見えた。 それで、何となく、私は悟った。 「そっか……私は死んじゃうんだ……。」 胸が……心が軋んだ。 そのあと、どうやって病室に戻ったのかは覚えていない。 喉は渇いたままだったが、何も飲む気にならなかった。……というより、驚きすぎて何も買っていない。 その夜は……眠れなかった。 それから、お父さんは頻繁に病院に来るようになった。 病室にもちょくちょく来て、私に声をかけてくるようになった。 そんなお父さんが、私はとても嫌だった。 「ひまわり?……聞いてる?」 上の空の私に、お父さんが問う。 それが、引き金になってしまった。 「お父さん……仕事は?」 「いまは、ひまわりと話をしていたいんだ。」 「どうせ……私が死ぬからでしょ?」 お父さんの表情が、凍りついた。 「どうせ私がもうすぐ死んじゃうから、最期に父親として接しようってだけでしょ!……授業参観も、運動会も文化祭も……来なかったくせに!こういう時だけ父親面、しないでよ!!」 「ひまわり……お父さんはそんなこと、思ってないよ?」 困った顔で、ひきつった笑顔で……お父さんは言う。 「うるさい!私には最初からお父さんなんていない!……もうすぐ私は死ぬんだから!ひとりで死んで、勝手にみんなに忘れられるんだから!……もうほっといてよ!」 言いたいことを、父にぶちまけた。 ━━パンっ━━ 次の瞬間。 私の左頬に衝撃が走った。 それからじわじわと、痛みがついてくる。 「死なせるわけないだろ!……ひまわり、お前は絶対に、死なせないよ!!!」 振り絞るように叫ぶと、父は勢い良く部屋を出ていった。 私は……唖然とした。 お父さんに殴られたのも、怒鳴られたのも…… この日が、生まれて初めてだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!