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4:すれ違い
お父さんに叩かれてからと言うもの、私と顔を合わせることが無くなった。
着替えとか、差し入れとかは、私が検診している間に病院に持ってくるらしい。
それでも、頻繁に病院に来ることは変わっていなかった。
ある日、私は担当の先生に、自分の病気について聞いた。
「肝芽腫といって、肝臓に出来る悪性の腫瘍です。癌のように転移することはありませんが、切除しないと生命に関わる事になりかねない。ひまわりさん、あなたはまさにその状態だ。」
まぁ、「死ぬ」と自分で思っていたのだから、どんな病気でも別に関係なかった。
「……そうですか。余命は?」
淡々と聞いて、答えた。
「歳を追う毎に悪くなる。それが何年先かは分かりませんが。」
つまりのところ、「分からない」と言うことらしい。
「治す方法はあるんですか?」
別にどちらでも構わなかったのだが、ためしに聞いてみた。
「生体肝移植。……適合するドナーが見つかりさえすれば、早めに手術をしたい。……ドナーが見つかれば、の話ですが。」
良く話を聞いてみたら、適合しない臓器で無理やり手術をすると、合併症などを起こして死ぬらしい。
しかも、だいぶ辛いらしい。
出来れば、私はもっと生きたい。
でも、この世は私ひとりで……そう思ったら、生きてても死んでも同じかな、って思ってしまった。
「簡単に……見つからないんでしょ?ドナーって。」
冷めた気持ち。
こんなに自分の事がどうでもいい、と感じたのは初めてかもしれない。
「家族でも、適合しない場合もあります。確率は、五分五分……。でも、世界は広い。何十億もの人がいるんですから、見つかりますよ。」
優しい笑顔で語る先生。
「……スケールの大きい話ですね……」
その優しさが、なんだか胸に異物をねじ込まれてるような、そんな違和感を生んだ。
「お父さんも、検査しましたよ?」
私は、一瞬……頭が真っ白になった。
「適合、するといいですね……」
この先生の言葉は、本心だったのかもしれない。でも、私は……
「するわけないですよ。……お父さんとは、しばらく話してないし……」
たぶん、この時の私は、すごく嫌な顔をしていたのだと思う。
「……あの人は、お父さんじゃないから。」
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