5:夕焼けと父の涙

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5:夕焼けと父の涙

生体肝移植。 私の肝臓のドナーを探して、1ヶ月が経った。 悪くなったからなのか、身体が毎日重くて、しょっちゅう熱が出るようになった。 病院のご飯も、何だか味が薄くて、美味しくないものが続いた。 友達も、そんな私に遠慮してか分からないけど、あまりお見舞いに来なくなった。 検査の時に、花瓶の花が時々取り替えられている。 身の周りに起こる変化はそのくらい。 何だか、疲れた。 そんなタイミングで。 「検査の結果、お父さんの肝臓は適合しませんでした。」 申し訳なさそうに、先生が私に告げた。 期待なんて、全然してなかったけれど、 「……やっぱりね。」 ……そう言ったとき、何故か胸が痛んだ。 2日後、私が起きて病室にいたときに、お父さんが来た。 「……元気か?」 「……びょうき。」 「……そうだよな。」 つまらない会話。お父さんは花瓶の花を取り替える。 また、小さなひまわり。 目が合いそうになって、慌てて逸らして窓の外を見る。 ……外は、真っ赤な夕焼けだった。 「……何しに来たの?」 「お父さんだからな。娘の顔を見に来たよ」 「今さら、お父さんって?」 「仕事は有給を取った。これからはもっとひまわりを……」 「……来ないで。」 夕焼けがキレイだったのに。 素直になれたはずなのに。 私は、父を突き放した。 「何がひまわりよ……もう死ぬのに、太陽を向けるわけ無いじゃない!……沈む夕日を見てた方がお似合いよ!」 苛立ちを 怒りを 絶望を 諦めを まとめてお父さんにぶつけた。 「そうだよな……今まで、何もしてやれなかったもんな……。ごめんな、ひまわり。手術が成功するまで、顔、合わせないようにするよ。身体は……大切にな?」 立ち去ろうと踵を返そうとするお父さんの顔を、一瞬だけ見て、その時胸が締め付けられた。 お父さんは、泣いていた。 夕焼けが赤くなかったら 夕焼けが眩しくなかったら きっと気づかなかっただろう、お父さんの涙。 頬を一筋、光らせて、お父さんは去った。 残された私と共にいたのは、夕焼けに照らされて、まるでオレンジ色の、小さいひまわりだけだった。
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