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「安達は星に願い事したことある?」
中川がビールを片手にベンチに座りながら聞いてくる。
「あるよ。むしろ今もしてる」
「え? マジで?」
「マジ。マジ」
安達はノンアルコールビールを片手に夜空を眺めながら言う。中川が興味津々にこちらを覗き込んでくる。きっと「願いって何?」って聞いてくるだろう。
「願いって何?」
ほら。
「なんでここまで運転してきて疲れている俺がノンアルでお前がビールなのかっていう理不尽さにむせび泣いて中川うんこ踏めばいいのにって願ってる」
言って、ノンアルコールビールの缶を煽る。炭酸が喉を通り過ぎて爽快感が残る。
「ねーわ。お前酷いわ。またうんこ踏めって罵倒にしてももっとバリエーションあるだろ。小学生か」
「中川が牛の糞を踏みますように。中川が牛の糞を踏みますように。中川が牛の糞を踏みますように」
「牛ってこんな所に牛の糞はないだろ。それに流れ星じゃないんだから三回言っても意味ないしな。夜空に願い事して叶ったら苦労せんわ」
「中川がうんこ踏みますように。中川がうんこ踏みますように。中川がうんこ踏みますように」
「やめろ。何かやめろ」
「ちっ」
「あと、露骨に舌打ちするのもやめろ」
「注文の多い奴だな。宮沢賢治か」
「それは注文の多い料理店な。お前を食べてやろうかーって奴」
「お前が宮沢賢治をしらないことだけは分かった」
話題が途切れて二人してビールをあおる。日付が変わりそうな時間、山の上の展望台で男二人座り込んでいる。
「最近うんこ踏まなくなったな」
突然、中川が言う。
「俺も」
「なんでだろうな? 小学生の時は週一で踏んでた気がするんだが」
「教えてやろうか?」
「分かんの!?」
「小学生の時って毎日が楽しくて明日が来るのが楽しみだったろ?」
「そういえば、そんな感じはあったな。くだらないことでも凄ぇ笑ってた気がする」
「だから、毎日まっすぐ顔を上げて歩いていたから足元を見てなかったんだよ。でも今は毎日が嫌すぎて下向いて歩いてるだろ? だから地面にうんこが落ちてても気が付く」
中川がビールを持ったまま馬鹿みたいに口を開けてこっちを見ている。
「お前。それ夢がないわー。夢っていうか希望もないわー」
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