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「ナンパして持ち帰っているくせにナンパについてくる女の子はタイプじゃないんだと」
「マジで屑だな」
「だよな」
中川の飲んでいたビール缶がまた空になる。
「……帰るか」
「そうだな」
二人して立ち上がる。
「ちょっとトイレ」
中川が小走りで公衆トイレに向かったので車に向かって歩き出す。もうすぐ、車にたどり着きそうな時にその声は聞こえた。一瞬足を止めて周囲を伺う。小さな悲鳴。それが聞こえたような気がした。
駐車場には誰もいない。安達達が乗ってきた車と先ほどのカップルが乗ってきた車しかない。ベンチには誰も座っていなかった。
ふと。気が付く。あのカップルはどこに行った? 関係がないと思いながらも一度気になると確かめずにはいられなかった。おそるおそる、カップルがいたあたりのベンチあたりに移動する。
やはり、誰もいなかった。悲鳴も聞こえない。ほっとしたのもつかの間。展望台の柵の向こう茂みの中に人が倒れているのが見えた。女の人が下で男が覆いかぶさっている。口元を男が抑えている。
関わりたくないと言うのが本音だった。でも、これを見過ごすと後悔と罪悪感に押しつぶされそうになるのだろうなと思うと頭を抱えそうになる。女の人が安達に気が付いて視線で訴えてくる。
「助けて」
安達が意を決して一歩を踏み出そうとした時、横を中川がもの凄い勢いで通り過ぎていった。勢いそのままに柵を飛び越えると男にドロップキックを放つ。
不意を突かれた男が地面に転がる。中川が女の人の前に立つ。蹴り飛ばされた男はすぐ立ち上がって鬼の形相で中川に襲い掛かった。喧嘩慣れしていない中川は思い切り殴り飛ばされて地面に転がる。安達が咄嗟に手に持っていたコンビニの袋から無造作に缶ビールを取り出すと全力で男に投げつける。
男は完全に不意を突かれて顔面に直撃した。躊躇せずに男を押し倒すようにタックルする。二人でもつれるように倒れこむと、男の腹の上に座りマウントポジションを取る。
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