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女の人に振り返ると彼女は安達達から逃げるように後ずさった。男というだけで恐怖を感じてしまっているのか、それとも血に染まっている安達の拳におびえているのかもしれない。 なるべく近づかないようにして警察に電話する。事情を離すとすぐに来てくれるとのことだった。 「これ、傷害罪かな」 安達がぼやくように呟く。 「過剰防衛じゃね」 言った中川の顔が腫れていた。おそらく安達の顔も腫れているだろう。そんな感覚がある。 男の両手両足をベルトで縛り上げて地面に座り込む。 慣れないことはするものじゃないなと思った。 「これチャンスなんじゃないの?」 安達がふと思い立ったように言った。 「何が?」 「こういうピンチを助けた女子と恋仲になるってよくあるじゃないか。漫画とかで」 「それ、俺が好きになるけど女の人は結局お前が好きっていうパターンだろ」 「それな」 腫れた頬を引きつらせながら笑った。 「それに、あれは間違いなく怖がってるだろ」 中川が女の人を視線でさす。女の人はこちらとの距離を保ちながら離れた場所に座り込んでいる。 「確かに」 「良い事ねぇなぁ。顔は痛いし、明日は仕事だし、間違いなく明日この顔で怒られるし。俺の足はくさいし」 中川が夜空を見上げながらつぶやく。 「最後のは関係ねぇよ。ああ。でも願い事は叶ったよ」 安達が唐突に言う。 「何がだよ」 「中川がうんこ踏めばいいのにっていう奴」 中川の足先を指さす。そこには茂みの中にあったであろう犬の糞らしきものが付いていた。先ほどのドロップキックの時についたのかもしれない。 「ふんだりけったりだな」 中川が大きなため息をついて、安達はドヤ顔で言う。 「糞だけにな」
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