名探偵エドガー 助手チヒロ

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 名探偵の助手の朝は遅かった。  寝間着帽子の頭をかきながら洗面所へ足を向かわせる。今日の仕事は何があったのか思い出そうとしたが、思い出したところでやる気が起きるというわけでもないので思考を停止した。寝ぼけ眼を指でこすり、顔を洗う。冷水がぴしゃりと顔に当たるとすこしは眠気が飛んだ。眠気が飛ぶと次に思い出すのは腹の虫である。自慢のピンク頭のおかっぱ髪についた寝癖を治すとタオルで顔を拭きながらキッチンを覗けばそこに昼食を食べる人影があった。 「ちひろくん! おはよう!」  くるくるとまるで動きそうな白金色の髪をぴょこぴょこ跳ねさせる男が一人。そんな遠い距離でもない、せいぜい二,三メートルの距離だというのにテーブルから助手に向かってぶんぶんと大きく手を振っている。 「ええ、おはようございますポチ」  助手はテーブルに置かれていたパンをかすめとり、温かなスープもごくごくとジュースを飲むかのように飲み干した。 「ああ! 僕のお昼ご飯とらないでよぉ」  ポチと呼ばれた男性が垂れ目な目を更に垂れ目にしてすがりつく。 「おなかすいたんです」  しかし助手はメインであろうソーセージのソテーも一気に丸呑みし、ゲップをお返しにした。 「うわーん! ひどい!」  せっかく作った昼ご飯をたべられてしまい、机に突っ伏せるこのなさけない男が、最近巷で名前を売る名探偵エドガー=メリーランドなのだが、その面影はここにはない。助手であるチヒロにだだっ子のように抱きついてはえんえんと泣き始める始末である。その無駄に鍛えられた二の腕がチヒロの体をぐいぐいと力強く締め付ける。 「痛いわ! 糞犬!」  名探偵の締め付けに耐えかねたチヒロは頭突きがを探偵の顎下にぶちかます。これにはたまらずエドガーも拘束していた腕を離し、今度は床にうずくまる。チヒロは平然とした顔で椅子に座ると目の前でもだえている探偵を足置きにして紅茶で優雅にのどを潤した。 「ひどいよぉ……ひどいよぉちひろくん……」  泣き言を言いながらも助手の足置きに甘んじる名探偵。情けない人だとチヒロは常々思っている。顔は極上の部類に入る美形なのに威厳が足りない。きりりとした表情が常に出来ればそれこそどんな俳優にも負けないであろう。 「デザートはないんですか?」 「冷蔵庫……のなかにプリンがあるよ」
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