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震える両手で受け取った。
だけどそれは、制作者なら一目で分かる猛毒入りの半林檎。
王妃、絶対絶命の危機である。
「ゲッ! こ、これは……! あ……えっと……その、わ、私、今はお腹空いてないのよ! だからこれは家に帰ってからいただくわ!」
「え? そうなの? でも、せっかくお婆さんと知り合えたんだもの。同じ物を一緒に食べたいわ。だってほら、仲良しって感じがするでしょう? 私、お婆さんとお友達になりたいの! だから……ん……あ、そうだ! じゃあ一口だけでも食べられない? たったの一口だもの、それなら大丈夫よ!」
白雪姫はニッコニコ、対し王妃は心臓バクバク。
心の中ではそれは激しく、
____なにが大丈夫だ! 大丈夫じゃないわ! そんなモン食えるかよ! 食ったら死ぬわ! そもそも姫を殺す為の毒林檎だわ!
毒づいた。
そんな気持ちを悟られないよう、必死に笑顔を作ってみたが大失敗で、顔はひしゃげて歪んだだけの体たらく。
目尻に涙を滲ませて、”頼むから空気を読んで! いらないって言ってんだからここは素直に退いてくれ!” 強く願うがそれも虚しく、白雪姫は満面の笑みを浮かべて「食べて!」と言ってさがらない。
____こういう所はやっぱり子供だ、この無邪気さに殺されるぅ!
危機は去らずもココであまりに拒否し続けて、怪しまれても面倒だ。
王妃は一口食べた振りをして早々に撤収しようと考えた。
「わ、分かったわ。じゃ、じゃあ、一口だけね」
それにしてもだ。
こうもジィッと見つめられたら食べる振りが難しい。
そこで王妃は大口開けて、ギリギリまで林檎を寄せて食べると見せかけ、それとなく白雪姫に背を向けた。
そして、後ろを向いたその隙に毒入り林檎をそこらに捨てる算段をつけた……のだが、そうは問屋が卸さなかった。
無邪気の有段者。
白雪姫が弾む声で、
「お婆さん、もしかして食べてるところ人に見られるのが恥ずかしいタイプ? やだ、可愛い! 乙女じゃなーい!」
またもや盛大な勘違いをしたからだ。
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