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王妃は強い絶望感に襲われながらもフル回転で考えた。
____毒を飲み込んでから何分経った!?
一分? 二分? いや三分は経っただろう!
あと七分で私は死ぬ、私の作った毒は完璧だ!
こんな所で死ぬのか? こんな老婆の格好で?
白雪姫を殺しにきて、こんな馬鹿な出来事に振り回されて無駄死にするのか!?
嫌だ嫌だ嫌だ、まだ死にたくない!
どうしよう! いや、落ち着け!
後七分ある、そうだ吐こう!
毒林檎を吐き出すんだ!
王妃は四つん這いになると口に手を突っ込んだ。
奥へ奥へと手指が入れば激しい吐き気がこみ上げる。
だがしかし、こんなに苦しく辛いのに、吐き出されるのは黄色く濁った胃液だけ。
王妃はダクダク涙を流し何度も指を突っ込んだ。
「だ、大丈夫?」
いつの間にか白雪姫が王妃の背中をさすっていた。
「気持ち悪いの? もしかして吐きたいのに吐けないの?」
王妃は涙と鼻水と涎でグチャグチャになりながら、姫の問いに何度も何度も頷いた。
____もう声を出す力も無い。
白雪姫は背中をさすり続けてくれるが、それで吐けるとは思えない。
毒が回りだすまでに、あと何分残っているだろう。
解毒剤は城の地下室、ここには無い。
もうだめだ、きっと吐けない、私は死ぬんだ……!
どうにもならない、手詰まりだ。
王妃は死を覚悟して目を閉じた。
…………と、その刹那。
「ふんぬっ!!」
白雪姫の気合いの声がした。
素手で林檎を割った時とまったく同じ野太い声だ。
その声に、え!? と思った次の瞬間、王妃の身体は宙を浮いていた。
____な、何事!?
王妃はキョロキョロと顔を動かし状況を探ろうとした。
すると王妃の胸の下、ちょうど胃のあたりに白雪姫の両腕が回り、ガッシリと固定されているのが見える。
どうやら後ろから抱えあげられているようだ。
何をするのか不振に思って眉を寄せると、耳元で白雪姫が大声を張り上げた。
「お婆さん、苦しいのね? 吐きたいのね? 分かった、私がなんとかしてあげる! 少し痛いかもしれないけど我慢してね! じゃあ、いくよっ!」
王妃は意味が分からなかった。
____一体何をする気なの? 私にはもう時間がないの、
疑問と不安と諦めと、三つが混ざり陰鬱な気持ちになるはずだった、が、それどころではなくなった。
何故なら、
「グハァァッ! ウゲェェェッ! ゴホッ! ガハッ!」
白雪姫は回した腕を強く締め上げ「ふんぬっ! ふんぬっ!」の掛け声に合わせ王妃の腹を休む事無く圧迫したからだ。
圧迫するたび宙に浮いた王妃の足が前後する。
老婆に扮した顔が苦痛に大きく歪む。
だが先程とは比べ物にならない激しい吐き気が込み上げてきた。
苦しいけれど気持ちが少し持ち上がる。
もしかしたら間に合うかもしれないと、希望の光が見えたその時。
王妃は淑女らしからぬ「ウゲェェェェェェ!!」と獣の断末魔のような叫びと共に胃の中の物をすべて吐き出した。
白雪姫は大量の吐瀉物に躊躇も無く、そのまま王妃を肩に担ぐと全速力で走りだす。
着いた先は湖で、そこの草場に気を失った王妃を寝かせ、その胸に自身の耳を押し当てた。
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