第1章 あの女は不死身の化け物か!?

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白雪姫は神経を耳に全振り。 トクントクンと王妃の胸から聞こえてくる力強い鼓動のリズムに息を吐く。 そして、ポケットから布を取り出し水で濡らすと、吐瀉物で汚れた顔を丁寧に拭いた。 拭っては布を洗い、洗っては顔を拭う。 そんな作業を繰り返すうちにすっかりと汚れが取れて綺麗になった。 ……が、何かがおかしい。 そう、綺麗すぎるのだ。 白雪姫はもう一度丹念に顔全体を拭い、吐瀉物と共に化粧まで落ちてしまったその顔を見て息を呑んだ。 「え……!? どうして……? お婆さんじゃない……このお方は……お継母様だわ!」 …… ………… 優しい風が王妃の頬をふわりと撫ぜた。 ひたいには硬く絞った布がのせられ、ひんやりとして心地が良い。 春の日差しが降り注ぐ中、王妃は意識を取り戻しゆっくりと目を開けた。 「私……生きてる?」 「あっ、お継母様! 気が付かれたのですね? お加減はいかがですか?」   目を覚ました王妃の顔を嬉しそうに覗き込む白雪姫。 王妃は軽く頭を振ってお礼を言った。 「ああ、姫、あなたのおかげで助かりました。ありがとう、」 言った直後、かすかな疑問が湧き上がる。 「……って、ん? お継母様?」    白雪姫は確かに今、王妃を ”お婆さん” ではなく ”お継母様” と呼んだ。 それに気づくや否や、身体の痛みも忘れて飛び起き両手で顔を何度もさわった。 ____し、しまった! 老婆の化粧が落ちている! 林檎売りの正体が王妃だとばれてしまった! となれば、白雪姫を殺そうとした事もばれたかもしれない! あーーーーっ! 焦った王妃が口をパクパクさせていると、白雪姫は静かに言った。 「お継母様……ありがとうございます」 「え……? な、何が?」 お礼の意味が分からなかった。 王妃は姫を殺しにきたけどしくじって、挙句、当の暗殺相手に助けてもらった。 この流れで感謝の意味が理解できない、それは当然の事だろう。 白雪姫は訝し気な王妃に向かってこう続けた。 「お継母様は……家出した私を心配してくださったのでしょう? それで、わざわざ林檎売りのお婆さんに変装して様子を見にきてくださったのですね。普段素っ気ない振りをなさっていても、こうして心配してくださる……私は……私はとっても幸せ者です」 二度ある事は三度あるとは言ったもので、白雪姫は三度目の勘違いをしたようだ。 だがそれに王妃はちゃっかり乗っかった。 「え!? えぇぇ!? えっと……ま、まあ、そうなのよ! わ、私はね、姫が森でどんな暮らしをしているか心配だったの! で、でも、あはは、あはははは、ばれちゃったみたいねぇ、」 泳ぐ目には白雪姫の泣き出しそうな笑顔が映る。 姫は頬を赤らめて、 「お継母様、大好きです!」 心の底から幸せそうに王妃に抱きついたのだ。
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