129人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
「次の方、スタンバイしてください!」
ダンスコンテスト係員の呼びかけに、我に返った王妃がゆっくりと顔を上げた。
いよいよかとステージ横から観客席を覗いてみると、愛しい娘と友人達が見てとれた。
それと大きな横断幕も。
「お、横断幕!? ん? 待って、なにか書いてあるわ……なになに? ”お母さん頑張って!” ……って、ちょっとやだ! 恥ずかしじゃなぁい! ああもう、あの子達は……! もう、もう……だけど……ふふふ、気持ちが嬉しいからいっか。みんな、ありがとね」
独り言ちで幸せ気分。
そうこうしてると娘と選んだ音楽が大音量で流れ出す。
出番だ!
しょっぱなからアクロバティック、バック転の連続技でステージに踊り出た。
耳に響くは割れんばかりの大歓声と、それに負けない白雪姫の雄叫びだ。
「お母さぁぁぁぁん!! 楽しんでぇぇぇぇぇ!」
野太い声に笑った王妃は力が抜けて、心と身体が羽のように軽くなる。
王妃は白雪姫と……いや、平凡で未熟な母は、可愛い娘と共に励んだ練習成果をこのステージで表現しようと高く飛ぶ。
優勝するとかしないとか、そんなのは些末な事で一位も二位も順位なんかに興味はない。
ただ今は、愛する娘と大事な友と一緒に笑って楽しむのだ。
さぁ、飛んで跳ねてステップ踏んで、バック転は得意技。
一つ一つの動きのすべてに娘の笑顔と思い出が詰まっている。
____ああ、なんて楽しい!
____なんて私は幸せだろう!
……
…………
………………
踊る王妃の赤いシューズにスポットライトが反射して、スパンコールの綺麗な飾りがキラキラと輝きだした。
ターンを決めてクルクル回れば光は繋がり線となり、王妃が踊れば踊るほど足元には光の尾っぽが絡みつく。
光りの残像、それがいくつも重なり合って煌めくさまは、まるで真っ赤に燃える炎のように見えたのだった。
了
最初のコメントを投稿しよう!