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◆
実に一年ぶりである。
白雪姫の命を絶つ為、老婆の姿に扮した王妃は姫の住む森の中へとやってきた。
手にした篭には林檎が一つ。
林檎は姫の好物で、その片側だけに努力の成果の猛毒が注入してある。
王妃の計画はこうだ。
林檎売りの老婆となって姫の目の前で林檎を半分に切る。
そして、毒の無い片側を目の前で食べてみせ、無害を装い毒入りのもう片側を白雪姫に食べさせる。
毒林檎を食した姫は十分後、心臓発作に似た症状を引き起こし、瞬き三つであの世逝き。
白雪姫の死を確認したら誰にも見つからないように城に戻る。
戻った後は、毒の製作に没頭したこの一年……願掛けのつもりで封印してきた魔法の鏡に久しぶりに質問するのだ。
____世界で一番美しいのは誰?
と。
きっと鏡は今度こそ王妃が世界一だと答えてくれるだろう。
必ずうまくいく。
なんてったってこの毒は特別なのだ、前回までとはレベルが違う。
ワンショットワンキルならぬ、ワンイートワンキル。
もう少し、もうあと少しで願いが叶うと、王妃ははやる気持ちを抑えつつ、白雪姫の住む東の森小屋へと急いだ。
……
…………
城からこっそり抜け出して、人目をはばかり森小屋に着いた王妃は、そこに想定外のものを見た。
一年前の記憶を辿る。
確かここに住んでいるのは、森の番人である七人の木こり達と白雪姫だけのはずではなかったか。
なのに今、王妃の目の前には若い男の後ろ姿があった。
筋骨逞しいその男は地上高二メートル程の木の枝にぶら下がり、背中に広がる広背筋とそのすぐ近くの大円筋、そして上腕二頭筋を苛め抜く為かは知らないが、ゆっくりと筋肉と対話するかのような懸垂をしていた。
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