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王妃は激しく動揺した。
「えっと……あの男は誰? 白雪姫のお友達? いや、誰だっていい。とにかく邪魔だわ。せっかく白雪姫を殺しに来たというのに……すこぶるマッチョなあんな男がいたのではできないじゃない!」
どうしたらいいのだろう……と、王妃が考えあぐねていると筋肉との対話を終えたのか、男は音も無く地上に降り立った。
謎の男のいでたちは、パツパツの黒いタンクトップに迷彩柄の軍パンツ、足元の編み上げブーツはかなり使い込まれている。
シンプルではあるものの、男の固く締まった筋肉をより美しく見せていた。
懸垂を終えた男は、鋼の筋肉をほぐそうと肩を回し、首を回し、柔軟過ぎる前屈をし、その直後には後屈を始めた。
上半身がグインと後ろに反れたその時、男と王妃の視線がバッチリぶつかった。
「…………!」
王妃は固まり石化した。
男は身体を極限まで反らしたままで王妃を凝視。
なんとも言えない沈黙の中、男が先に口を開く。
「こんにちは、」
男は逆さをキープしながら良い笑顔。
体勢が体勢だけに発した声はくぐもっている。
一方王妃は条件反射で、
「え? あ、こ、こんにちは」
挨拶を返したのだが……この時、妙な違和感を感じていた。
だがしかし、この段階ではそれが何かはわからない。
数瞬の沈黙の後。
身体を起こした謎の男は、汗を掻いた黒髪短髪を布でゴシゴシやりながら王妃に向いた。
「気持ちの良い天気ですね。トレーニングするには暑すぎず寒すぎず、最高のコンディションです」
その声を聞いた瞬間、さっき抱いた違和感が大きく膨れて王妃の胸で暴れ出す。
頭の中では否定と肯定、その二つがせめぎ合っていた。
「……え……? ちょ、ちょっと待って……そんな……嘘でしょう……?」
思わず言葉が衝いて出る。
同時、王妃は視界が暗転しそうなひどい眩暈に襲われて、立っていられず片膝を地につけた。
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