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筋骨隆々、これだけの立派な体躯は一般人ではそう見ない。
軍人と見紛う程の逞しさだ。
姫の発する鈴の音に似た綺麗な声と、タンクトップの胸元の、胸筋以外の微かな山を見落としたなら、ずっと男だと思い込んでいただろう。
「あ、あの、お嬢さんは……その……白雪姫……ですよね?」
確信を得た王妃だが、それでもどこかで否定の言葉を願いながら質問を投げかけた……が。
「え? あ、ハイ! 私、白雪です! でもお婆さん、どこかでお会いした事ありました?」
____チッ! やっぱりコイツ白雪姫かよ!
はぁぁぁぁ……深くて長い溜息を一つ、王妃は心底落胆した。
自分から美の世界一を奪い、憎らしいながらも唯一のライバルだと思っていた白雪姫。
どう頑張っても一位奪還ができず暗殺を試みる事過去三度。
どれもこれも失敗に終わり、四度目の暗殺には準備に一年も費やしてきた。
それなのに白雪姫のこの変貌ぶりはなんだ。
確かに、顔だけみればまだまだ美人の分類に入るのだろう。
だが世界一の美貌の姫は、世界で一番のマッスルビューティーにシフトチェンジしている。
今の姫は熊にも勝てそうなくらい逞しすぎるのだ。
こうなる事が分かっていたら、わざわざ毒など作る必要はなかった、「私の一年を返せ!」と思わざるを得ない状況なのだ。
王妃は大いに脱力し頭を抱えた。
そんな事などまったく知らない白雪姫は、
「お婆さん……やっぱり具合悪いのね。大丈夫? ウチで休んでく?」
王妃の顔を覗き込み心から心配している。
聞かれた王妃は投げやりだ。
おざなりな返事でごまかし、それよりもと疑問を投げた。
「いやぁ……うん、大丈夫。ちょっとね、なんて言ったらいいのかしら……色々と疲れが一気に出てしまったの。はぁぁぁ……もう良いわ、何もかもどうでも良いわ。だから心配しないでちょうだい。ところで白雪姫、去年にアナタを見た時は、今よりずっと色白で華奢だったと思うんだけど……随分と変わったねぇ」
失礼極まりない聞き方だ。
それでも姫は気にする事なく素直に答える。
「あぁ……実はね、これには事情があるの。私は以前、何度か殺されかけた事があって、そのたびに一緒に住んでいる木こりさん達が助けてくれたのよ。ありがたいわよね、みんなのおかげで私は生きてる。感謝をしてもしてもし足りないわ。それと同時、毎回みんなに心配をかけて申し訳ないとも思っていた。瀕死から目が覚めた時に見た、みんなの泣き腫らした顔……それがとっても切なかった。だから私は決心したの。次に誰かに襲われたら走って逃げよう、絶対に捕まらないと。その為に毎日早起きをしてジョギングを始めたのよ。それでね、」
王妃はずっと黙っていたが、ジョギングだけでそんな身体にはならないだろう、と心の中で呟きながらその先を聞いた。
「ジョギングを続けていたら驚くくらいにスタミナがついてきて、身体を動かす事が楽しくなってきたの。そのうち、走る以外にも色んなメニューを追加して鍛えていたら、知らない間にこんなにも筋肉が付いたのよ! 自分でもびっくりだわ! 木こりのみんなも『仕上がってる、まるで鋼みたいだね!』って褒めてくれるし!」
嬉々とする白雪姫。
経緯を知った王妃はというと、
____ああ、思った以上に楽しくなっちゃったのねぇ。この子は昔から何かに夢中になると止まらなかったから……
と幼少の姫を思い出し、妙に納得したのだった。
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