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「ねーハルアキ! ほんとにこっちで合ってるのー!?」
ジャオが少し後ろを歩く青年に声を張り上げる。
「合ってる。長い道中で何度も訊くな」
ハルアキと呼ばれた青年は、自分の少し前をぷりぷり歩く少女にめんどくさそうに答えた。
ジャオが苛々するのも無理はない。もう三日も荒野を歩いているのだ。
未だ、街どころか建物一つ見えてこない。
この荒野に入ってからこれまで、街の址を二つみかけたが、どちらも人がいないばかりか建物は崩れ、廃墟を通り越して荒野の一部になりつつあった。
このあたりは、コミュニティもなく放浪する人もほぼいない、殺伐とした荒野が広がっている。
「エーヴィヒに行きたい」
荒野の案内人を自称する青年に、ジャオ――朝という名前の少女はそう言った。琥珀の肌に黒髪黒瞳、大きな瞳がしっかりと青年を見る。
「なんで」
ものすごくめんどくさそうに訊く青年に少々イラつきながらもジャオは言った。
「平和なんでしょ、そこ」
前時代のように穏やかに、平和に――
「見てみたいじゃない、どんなところなのか」
誰も信じていない。そんなところがあったらいいなというお伽噺だ。
「どうせ一人なんだし」
エーヴィヒに行きたいと言うとみんな嗤ったけれど、一人で彷徨うなんて、この星では普通だ。その最中にあっさり死ぬことも。
だったら、どうせなら見たいものを見たい。探したかった。
ジャオと同じく黒髪黒瞳の青年はジャオを見て少し考えるような顔をして、金額を言った。
「ちょっと! 高いんじゃない!?」
荒野なら多少高いかもしれないと思っていた、それよりさらに高い値段を提示されて思わずつっかかる。ぼったくられるのはごめんだ。
「ちょっと遠いんだよ、わかりにくいし」
「…………ほんっとうに、知ってるんでしょうね?」
ジャオが青年を睨んでも、青年は相変わらずめんどくさそうにしているだけだ。
「……ほんっとうに、連れて行ってくれるのね?」
「その金額払ってくれるなら」
「……わかった」
そうして、ジャオは「ハルアキ」と名乗った青年と荒野を歩き出した。
荒野と呼ばれるそこは文字通り荒野だった。
見渡す限り広がる乾いた大地。
植物も少なく、動くものはもっと少ない。
その日、人の生活の痕を見ることはなかった。
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