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「氷花君は、何か迫力がある時があるね。もしかして、そっちも素顔なではないの?」
温科に指摘されて、俺はふと気づいた。こうして、望月の先を読み続けている事を、楽しんでいる自分がいた。
「そうなのかもしれません」
温科に言わせると、本当に愛隣博士に見えたという。温科が思わず仕事中であるのに、俺の写真を撮ってしまっていた。
「俺は、多分、近いのでしょう」
弥勒に近く、犯罪者に近い。だから、きっと善人という立場に拘る。
「まあね、氷花君が仕事をしてくれれば、それでいいけどね」
温科は、それ以上は追及しなかった。
土曜日になると、俺は、慶松に教えられた公園に行った。すると本当に、乳母車に人形を乗せた男性が来ていた。
「美湖那(みこな)ちゃんと、ともだちになれますか?」
乳母車の男性は、無言でベンチに座っていた。俺の姿は、視界にないらしい。
今日は、公園には誰も子供がいなかった。ここの付近で、殺人事件があり、外出者も少ないのだ。殺人事件というのは、ホテルのミイラの件であった。
「こっちの子が、与那ちゃん。そっちが、理奈ちゃん、小さい子が真希ちゃんですよね」
そこで、俺の顔を見てくれた。
「今日、初めて連れてきた子もいたのに、よく分かったね」
それは、美湖那が通っていた幼稚園の、名簿を見てきた。
「俺は氷花です。少し話を聞いて貰えますか?」
男はやはり乙訓であった。
「奥さんと美湖那ちゃんは、風呂場で燃やされていた?そうではありませんか?」
乙訓は無反応であった。
「同じ犯人が、別の子供を狙っているのです。狙われているのは里穂(りほ)ちゃん三歳、未歩(みほ)ちゃん五歳です」
二人は久留実の娘であった。
「調べている犯人の特徴を、教えて貰えませんか?」
乙訓は、人形を一体手に取った。これは、他の人形と比べてかなり古い。
「……どうして狙われていると分かる?」
それは話すと長くなる。俺は、自動販売機で飲み物を持って来ると、乙訓に渡した。
「まず、弥勒という組織があり、そこに望月という男がいます」
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