『COMPILER』

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 乙訓には、俺も見えていないようで、玄関まで走ると外に出てしまった。俺は乙訓を追い掛けたが、乙訓はタクシーを捕まえると乗って行ってしまった。 「どこに、行ったのだろう……」  もう、どこにも乙訓はいない。  暫し乙訓を待っていたが、帰って来る様子もなく、俺も家に帰る事にした。でも、その前に遠見の所で、本を読んでゆく。  遠見の家に行き、乙訓の人形の話をすると、遠見がしきりに欲しがっていた。 「売ってくれるそうですよ」 「では購入する。氷花君が本を読み終わったら、全部処分するので、場所はあるしね」  遠見の家の二階に上がると、本を読み始める。そこで、過去の事件を頭に入れた状態で、望月の事件を考えてみた。 「宍戸、どうだ?」  広げた端末に話しかけてみると、返事が来ていた。 「八番目はどうにかなった。九番目まで進んでいる」  十番目は、望月が愛人にするであった。すっかり、数え歌のように有名になってしまったので、望月は行動を覆すかもしれない。 「十まで終わったら、十一番目を発表しようかね」  ここからが、本番で今度は望月の知らない未来になる。 「十一番目は何にするの?」  過去は未来に繋がっている。石田の家族と、久留実の家族は生き残る。そこで、望月の未来が変わってくる。 「十一番目で望月は消える。死ではなく、消える。どこを探しても存在した痕跡を無くす」  そして、十二番目で完結する。 「十二番目で、望月は弥勒になる」 「どういう意味、消えていなくなって、十二番目で現れてしまうわけ?」   不可思議であったほうがいい。 「まあ、そういう台本だね」  そこで、再び遠見の本を読み漁る。 「宍戸、兄さんとは別れないよね?」 「当たり前でしょ」  宍戸は、孝弘を離さないという。でも、孝弘はもうすぐ、子供が産まれる。 「護浩さんは、ブラコンだからね。俺が邪魔かな?」 「邪魔だとは思ったけど、今は少し和らいだかな」  宍戸が本気だと気が付いて、絶対に別れて欲しいとは思えなくなった。  家族というのが、夫婦と子供となったのは、最近の事かと思う。でも、夫婦だけで子供を育てるのは至難の業でもあった。俺の実家も、祖父母も協力して子供の面倒を見ていた。  都会には、保育園や施設もあり、利用しながら生活している。でも、保育園は家族ではない。もっと多様化した世界になってくれればいいと思う時がある。
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