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俺達の席は外になっていた。他の客は室内になっている。
テーブルの真ん中に蝋燭はあるが、他に明かりがない。それに、何だか隔離されている。
「はい、前菜ね」
もしかして、野菜好きなどと言ったので、警戒されてしまっているのであろうか。
「あの、俺、野菜好きですが、別にクレーマーとかではないですよ」
少し弁明してしまった。
「分かっていますよ。この席は特別席ですよ。ほら、今日は女性のグループが来ていましてね、貴方たちが気になって仕方がないようでね。お二人とも二枚目ですから」
静かに食べて欲しくて、この席を選んだのだそうだ。それにテーブルが暗いと思ったが、庭はほんのり光っていた。
「すいませんでした。ありがとうございます」
運ばれてきた前菜は、かなり新鮮な野菜であった。しかも、おいしい時期を分かっている。
かぼちゃのマリネなどもあって、甘さが良かった。
「美味しい!」
「そうだね。人と食べる美味しいは、三倍美味しいよね」
今日、辛い気分も多かった。でも、美味しい物を食べると、生き返る気がする。
女性がこちらにカメラを向けていたので、老婦人がやんわりと窘めていた。
「いい店だね」
見えない気遣いが嬉しい。
「俺も、そう思うよ」
慶松は車を運転しているので、ワインは飲めない。俺も付き合ってアルコールは止めようかとしたが、慶松が注文していた。
「氷花、美味しく食べてね」
月を見ながら、乾杯するというのもいい。草が揺れて、風が直に顔に当たる。
「で、どんなラブホにしたの?」
一瞬、慶松が固まった。
「まあ、餌で釣ったけど、バレているよね」
慶松は、俺は野菜でどうにかなると思っている。それは、ある意味正解でもあった。
「ここで、夜景を楽しんだら、山の方に行こうかと思ってね。山菜もいいでしょ」
山菜も嫌いではない。
「まあ、採る方も得意だしね」
次々とかぼちゃ料理が運ばれてくる。居酒屋もいいが、レストランもいい。
「あ、着替えとか持ってきていないや」
遠見の家から、そのまま来てしまった。
「車に少し着替えも積んできたよ」
どこまでも、慶松は準備がいい。でも、ラブホに着替えを持っては行かないだろう。
「本当にメインもかぼちゃだ」
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