夏のおもいで

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「花江さん、咲ちゃんとりっちゃんが来たよ。」 「おばあちゃん、久しぶり。」 「ひぃばば、ひさちぶり!」 孫とひ孫と、仏壇に向かい手を合わせる。 あれから、何十回夏が来ただろうか。 それから貴女のいない夏は、何回過ぎただろうか。 貴女が居なくなっても、夏は容赦なくやって来た。 僕はその度に、あの夏の日を思い出す。 母をなくした日を、 セミの声がうるさかった山を、 不安に押し潰され下を向いて歩いた道を。 絶望を感じたあの夏に 初めて貴方に会った日を、 初めて飲んだサイダーの味を、 初めて優しさが沁みたあの気持ちを… 「…ひぃじじ~!」 「ん?」 呼ばれて見れば、貴女のあの大きな目。その目によく似た小さなひ孫が、僕を見上げていた。 「あのね、」 ひ孫は僕の耳に小さな手をあて、母親に聞かれないようにこっそりと話した。 「りっちゃんにも、サイダー半分ちょうだい?」 『サイダーを半分こしたのは、内緒よ。』 あぁ… 今年も貴女を思い出すよ。 「じゃあ、ひぃじじのを、半分こしようか。」 「うん!やったぁ!!」 庭の木から、大きなセミの声がする。 半分こしたサイダーがパチパチと弾け、チカチカと喉に響きながら、冷たいままお腹の底に流れていった。 end
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