第1章

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晴れた日に神社から見る景色は最高に美しい。そこから海が見えるんだ。まるで宝石を散りばめたように海の表面がキラキラ輝くその様は誰もの目を釘付けにする。 そして、少し高台にある神社に続く道もまた美しいのだ。林の中に一本道があり緑に囲まれ、特にゆるいカーブを過ぎて朱色の鳥居が見える直線の道は驚くほど神秘的だ。真っ直ぐそびえ立つ木々は空に近い場所で葉を伸ばし自然に出来た木漏れ日が更にそこの空間だけ神聖な空気を漂わせる。 俺の住む町には昔からの言い伝えがある。海をバックに山に向かう一本道。この道は悪しき心を持つ者を飲み込む道と言われ年に一度、6月の新月の夜、入口が開く。だから、その日は静かに過ごすのが習わしだ。 この道は封鎖され、供物が置かれる。入口を閉じて貰うための儀式を行うんだ。その準備をする者も厳選され綺麗な心を持つ者に限られている。 昔は行方不明になる人がかなりいたらしい。この一本道に入口がある事を知らなかった時代は、注意を促すことで人々を守っていた。 悪しき心を持つ者を飲み込むというのは、ここに近寄らせない為の昔の人の方便だ。 儀式を行うようになって行方不明になった者はいない。昔の人は凄い。先人の偉大さに頭が下がる。 この道の何処にその入口があるのか誰も知らない。長老は知っているかもしれないけど、それを口にする事はない。
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