③始まりそうで、きっともう始まらないであろう恋

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「田端さん。いつも歯磨き1回何分くらいしてますか?」 「1分したら良い方だなあ~。今朝はもっと短いかも。」 「駄目ですよ~。今日から必ず1回3分は磨いてくださいね。あと歯ブラシは、余計な力が入らないようにこうやって持ってーーー」 「あ、これ。」 美咲が受付に戻り、会計を済ませるなり、田端さんはライトグリーンの小さな紙袋を差し出す。中央には、ぱきっとしたオレンジ色のアルファベットで『piquant』と書かれている。 「昨日隣街に行ったので。前、美咲さん美味しかったと言ってくれてたから…。」 やっぱり私にか。 昨日の夜は録画した恋愛ドラマを見て泣きすぎたから、笑い皺が綺麗につくれるだろうか。 重たい瞼をいつもより丁寧に動かし、ニコッと笑う。 「田端さん。いつもありがとうございます。とっても、嬉しいです。」
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