①世界が自動的にカチッと切り替わる瞬間を貴女は知ってますか?

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「美咲ちゃん。今日も相変わらず可愛いね。」 今月は週1ペースで仕事場に来る田端さん。 年は39。中肉中背。髪はまだフッサフサ。 首から上は、オリエンタルレイディオのAhっちゃん似。 もう少し、顔が良かったらな~。 喜んで、付き合うのに。 「あ、これ。」 田端さんが差し出したのは、田端さんの胴体の幅くらいはありそうな横長、黒のカッチリとした紙袋。 中身を見なくても、高いか安いかなんて、女は紙袋を見ただけで分かるもの。 CHANNNEL 鞄かな。新作がいいなあ。 あ、でもこないだ街で見かけた、顔の2分の1がサングラスのサラサラロングヘア女が持っていた、カラシ色なのにブランドロゴが白でデカデカと存在するアレだったら、最低。 「何ですか?」 紙袋の中をちらっと覗くが、黒い箱が純白のリボンで可愛らしくラッピングされていて、中身は分からない。 初めは「お疲れ様」、と缶コーヒー。 次は「隣街に行く用事があってね」、と隣街で美味しいと有名な七味唐辛子が練り込まれているちょっぴり湿ったクッキー。 そして今回は、美咲ちゃんに似合いそうだな、と思ってCHANNNEL。 なんとまあ急激なグレードアップ。 ま、一応、言っときますか。 「田端さん。前にも1度お伝えしたと思うんですけど。」仕事場でプレゼントは、頂けないんですよ。 火照った顔がシュゥウンとしょげ顔に変化していく田端さん。ほんと、分かりやすい人。 「僕が勝手にやってるだけだから。内緒で貰ってくれないかな?」 ほら。まあそう言うと思ってこっちも言ってるんだけどね。 「じゃあ。お言葉に甘えて。いつもありがとうございます。とっても、嬉しいです。」 ほんの少しだけ笑い皺ができるよう調整しながら、ニコッと目を細めて笑うと、田端さんは首までジュワァ~と赤くなる。 おお。完熟トマトが潰れちゃったみたいなとろ~んとろん顔。 ほんとに、純粋な人。 でもやっぱり、街で見たアレだったら、最低。
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