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「はぁあ~疲れた。」
1人家に帰り、真っ暗ななか慣れた手つきで電気スイッチをカチッとつける。
玄関から、7帖1K、物で溢れかえった狭い部屋をぼうっと見渡す。
正面に見えるガラステーブルの上には、ふんわり素材で紺色の布袋、キラキラと細かいラメ入りのもの、の中から半分だけ顔を出す焦げ茶色の革の鞄。中にはまだ型崩れ防止用の紙が詰まったままだというのにボケェッと倒れている。
可愛いのにサイズが合わなくて断念した8センチヒールの靴は、上品に八の字で床に転がっているし、
サビサビのハンガーで壁にかかっている清楚な小花柄のワンピースは、ピンクじゃなくて、水色が良かった。
確かこれは取引先の前川さんで、こっちは、野崎さん。これは…誰だったか。
「さて。田端さんのは…。」
ラッピングにかけられたであろう時間を全力で否定するかのように、純白のリボンをシュンッと忍びのごとく消し去る。
蓋をパコッと開けテキトーに床に投げると、品物は箱の中でまで黒の柔らかな紙に大事に包まれていた。
と思ったら、サイドは紙がなく直に箱に触れている。
うーん。黒地か。
右手でサイド部分を掴むとさわり心地はフワフワ。
ハラッと黒の柔らかな紙をはがすと、遂に全貌をあらわした。やはり、鞄だ。
トートバックよりは少し小さめ。
持ち手の部分は、安物のギラギラした金色には絶対に出せないであろう、存在感がありつつも落ち着いた余裕を放つ、ゴールドのチェーン。
あ、可愛いかも。
ん。あれ?
美咲は鞄を食い入るように見る。
…やっぱり。
「これ確か今月出たばかりの新作だ…。」
自分の顔がだるんだるんに緩んでいくのが分かる。
でも。勢いよく浮かれた分、ふと雨粒のようにポツポツと心に芽吹いてはじんわりと広がる寂しさ。
「田端さん。私の顔しか、知らないじゃない。」
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