②書かれている文字までは見えないが、多分『piquant』

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「いらっしゃいませ~」 聡美とは違って、仕事場から家が離れているので、美咲はいつも午前の部が終わると定期を使いバスで隣街まで来る。適当にカフェやレストランを探し、昼食をとるためだ。今日は、あんかけスパが美味しいと有名の、少しお高めイタリアンファミレス。 「1名様ですね~。こちらの席におかけくださぁ~い。」 明るめの茶髪を、ゆる~く巻いた若い女の店員に案内され、美咲は席につく。ちょこん、とした口元が小動物みたいでとっても可愛い子。多分あの髪色は、モカブラウン。 あ…。 美咲が座ったボックス席から見て斜め前。こちらを向いて座っているのは、田端さんだ。 仕事中だろうか。灰色のスーツ姿で、恐らく田端さんと同年代くらいのスーツを着た男性と向かい合って、敬語でペコペコ話し合っている。 田端さんの右側、に置いてあるのは、いかにも営業ができない人のビジネスバッグ。端が汚れて剥がれて、全体的にクタァ~としている。 そしてその隣には、ライトグリーンの小さな紙袋。中央にはぱきっとしたオレンジ色でアルファベットが書かれている。 書かれている文字までは見えないが、多分『piquant』。 前にもらった紙袋と同じように見える。あれはきっと、七味唐辛子のクッキーの店だろう。 確か明日の朝一で、田端さんの予約が入っていたから、もしかするとまた、私にくれるんだろうか。 あ、しまった。見すぎたのだろうか。田端さんと目があった。 が、田端さんは何事もなかったかのように目線を前の男性に戻す。 はぁ…。 もう一度じぃっと田端さんを見つめる。 ほんともう少し、顔が良かったらなぁ~。 まあ私、人のこと言えないけど。
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