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春の宵、灰に泣く
「清陽(きよあき)。」
掠れた己(お)れの声は虫にも劣る細やかさであった。冷える気配はしたが、寒さは感じない。己れは存在の全てを清陽だけに注ぐ。
「清陽。」
とうとう膝の上に乗せれば包み込む事が出来る大きさになってしまった。自ら、この己れに連れ去る権利をやると言ってから三日も経たず、咀嚼を止め、血流を止め、ヘイゼルの瞳を縁取っていた長い睫毛や猫の様な髪は、この箱の中へ灰となって納められてしまった。
「……清陽。」
木箱を開ける。骨壷はつるりとした陶器であり、清陽の肌を思い出させる。看病してやった時と同じく、慎重に触れ、蓋をずらした。
珊瑚が弾け、吹けば飛んでいってしまいそうな淡い桃色をした骨が覗く。大小様々な骨は清陽の内面にあった、芯のある言葉達に似ている。
「清陽。」
お前はどんなになっても綺麗な奴なのだな。少しばかり皮肉を零したくなる。
降り積もった沫雪が底に溜まっている。二月の大雪を思い出す。
遺言通り、清陽の中身は隅々まで調べ尽くされた。骨は大きい物は砕かれていて、観察すれども見分けは付かなかった。
「きよあき。」
さて、己れが今からしようとしている事は、一体何にあたるのだろう。
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