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君が死にゆくのをただ、眺めていた。
邪魔をしないよう、髪の毛一本君に触れることのないよう、僕は万全を尽くした。
苛烈な日光の直撃を受けたコンクリートの床は、鉄板のように熱い。その上にぐったりと全身をほうりだしている君は、十五分と少し、つまりこの小説が書き終わる頃には立派なカルビになっているだろう。
油で焼けすぎないように、二メートル超の巨大なトングで君をひっくり返す。
日焼けを拒絶していた白い透けるような肌は、じりじりと焼かれたことでいい具合の焼き色が付いていた。これぐらい赤く火照って見えるほうが、実は好きだ。
さっきまでは呻くような声が聞こえていたのに、今は随分と静かだ。多分、声帯が焼けたのか、もしくは死んでしまった。人が肉になるのを見るのはこれが初めてじゃないけれど、たいていはロースとかフライドチキンだった。だから焼肉っぽいのは珍しくて、僕はカルビが好きだから、彼女のことは記念にカルビ丼にしよう。
――と、こんなところまで語るに落ちれば、賢明で聡明で聡慧な読者の貴方には、こう思われることだろう。
なんだ、この猟奇小説は、と。
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