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――と、こんなところまで語るに落ちれば、賢明で聡明で聡慧な読者の貴方には、こう思われることだろう。
なんだ、この猟奇小説は、と。
だがそうじゃない。そうじゃない、何故なら僕は彼女を愛しているから、彼女のことを大事に思いその遺志を尊重したいと感じているから、今苦しくも、彼女をカルビに例えているのだ。
彼女だけじゃない。日本中の人間が、自身を生肉だと思い込み、焼肉のおかずになりたがるのを、もう僕は三ヶ月も見守り続けている。
きっかけはロシアの生体実験だったか、ドイツの細菌テロだったか、アメリカのバイオ研究だったか、なんだったかはもう情報が錯綜し過ぎて、恐らく一生「真実」なんてものは明らかにならないが――。
数ヶ月前、突如、世界中の女性が「焼けた肉」になりたがった。
早めに兆候が現れたのは「フライドチキン」になりたがる女性だ。揚げ物になりたかった女性たちは気が早く、我先にと巨大なプールに油を入れてパーティーを始めた。夜な夜などこにいってもぱちぱちと油の弾ける音がして、僕の母もこの一群に混じって死んだ。おそらくきっと、僕は生涯二度とから揚げを食べられない。
勿論、女性のパートナーにあたる僕たち男性は必死で止めた。なぜか男性がこの奇病におかされることはなく、僕たちはこの三ヶ月もの間、いつでも女性を止める側だった。
父は母を止めたし、僕は妹を止めた。でも、彼女らの衝動は恐ろしかった。どうしても仕方ないのだ、堪えきれないのだ、どうか私の人生のために目を瞑って許してくださいとまで言われたら、僕たちに出来ることなんて、殆ど無かった。
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