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ちなみに『とおちゃん』というのは俺たちが中学生の頃に蕗野につけられたあだ名である。名前が『十』であったことと、昔から本を愛読していただけのことはあり、周りの中学生と比べ少し知識もあり落ち着いてもいたので、その大人びた様子から名づけられたのだ。学生らしく安直でしかも愛着の沸きそうなあだ名なので、俺からしたら良いんじゃないかと思うのだが、本人は少しバカにされていると感じるらしく、あまり好きではないようだ。
「ごめんごめん、悪かったって」
「いくら幼馴染だからと言って、冗談半分で昔のあまり好きじゃなかったあだ名で呼ぶなんて酷いよ」
「だって、寒いおやじギャグを連呼する親父のようなトークセンスしてるからだろ?」
「いやまぁ、それはそうなんだけどさ」
「もう少しトーク力つけようぜ。……おっと」
歩きながら、何気なしにわきを見ていた俺は、足を止めた。
蕗野も立ち止まった俺に合わせ足を止める。
俺は車道を挟み向かい側に見える公園を指で差し示した。
「あそこ、小学生が座り込んでるよな? どうしたんだと思う?」
指の先を目で追った蕗野は俺と同様に、地べたに座り込み辺りを見回しながら目を擦るランドセルを背負った男の子を発見した。
その様子を遠い目で少し眺めると、蕗野は言う。
「大事なものをうっかり落としたとか、何かをなくしちゃったんじゃないかな?」
「なるほどな。ちょっと、寄ってみていいか?」
「うん、まだ校門閉まるまでちょっと時間あるし」
「じゃあ行こう」
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