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俺は蕗野を連れ、横断歩道を渡った。公園の脇で座り込む子供に、できるだけ優しい声で話しかける。
「僕、どうしたの?」
その子供は涙に頬を濡らしながら、頭上の木の枝を指差した。
「靴飛ばししていたら、木に引っかかっちゃった……」
その子の足元を見ると、両足とも底の汚れた靴下で地面に立っていたのがわかった。
見上げると、上の方の木の枝に小さな靴が二つ引っかかっている。
どうやら片方の靴が引っかかり、慌ててそれを打ち落とそうともう片方の靴を脱いで投げ始めたまでは良かったが、そのうちにそちらも引っかかってしまい、どうしようもなくなり途方に暮れていたようだ。
かわいそうに……
「蕗野、ちょっと俺のリュックを持っておいてくれないか」
「うん、わかった」
俺は背負っていたリュックサックを下ろすと、蕗野に投げ渡す。
そして男の子の隣にしゃがむと、背中をポンポンと叩いた。
蕗野も男の子に近づき、声をかける。
「僕、ちょっと待っててね」
俺は靴が引っかかっているその木の枝の元を目で辿り、木の幹に近づくと、枝分かれしている部分へ足をかけ、登り始める。
「途中で落ちたりしないでね」
「さすがにそこまで危ない橋は渡らないさ」
蕗野の呼びかけを軽く流しつつ、手をかけ足をかけ木の枝を掴み両足で木の幹を挟み込み、木の上部へよじ登っていく。
そして靴が引っかかっている枝の近くまで行くと、その枝を掴み、大きく揺らした。
葉の擦れる音が大きくなり、靴が二つとも男の子の近くに落ちる。
俺が落ちぬよう気を付けて下りている間、蕗野はその落ちた靴を拾い、肩を叩いて男の子の顔を上げさせた。
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