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午前、午後となんらいつもと変わりない授業が終わりを迎えた。
クラスメイトが次々と立ち上がりカバンを持って帰っていく中、一人の女子生徒が俺のところへやってくる。
「まっちゃん! 早く校門のとこ行こっ! みんな待ってるよ」
彼女の名前は井上(いのうえ)舞(まい)。薄茶色に染められたショートボブの髪と健康的な小麦色の肌が魅力的な、いつも笑顔溢れる溌溂とした女の子だ。クラスメイトであり、幼少期の頃から仲良く遊んでいた俺の幼馴染でもある。
俺はいつもながら、彼女の発言に引っかかりを感じていた。
「井上、いつも言ってるけどさ。やっぱ『まっちゃん』は恥ずかしいって」
「もう~。いつも言ってるけど、仕方ないでしょ。わたしは幼稚園の頃から『まっちゃん』って呼んでたんだから。今更変えろって言われる方が難しいの」
「だから、それは幼い頃のあだ名だろ? いくら幼馴染とはいえ普通大きくなったら呼び名は変えるって」
「そりゃそうだけど……でも変えるタイミング逃しちゃったんだから、別にいいじゃん」
いや、良くねぇんだよ。
こっちはいつもそのせいで、陰で他のクラスメイトに『まっちゃん夫妻』ってからかわれているんだぞ。
今日だって授業中に何度かからかわれたんだ。
よし、今日こそはやめさせてやる。
「あのな、井上。実は『まっちゃん』って、言ってるお前も『まっちゃん』だからな?」
「わかってるよ。というか昔は、まっちゃんもわたしのこと『まっちゃん』って呼んでたじゃん」
「いやそうだけど……。ならやめろよ! おかしいだろ?『まっちゃん』が『まっちゃん』って呼ぶの」
井上がそれを聞いて、急に機嫌が悪くなった。
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