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「わたしがまっちゃんのこと『まっちゃん』って呼んで何が悪いの? わたしが名前的に『まっちゃん』でもまっちゃんは『まっちゃん』なんだよ? 『まっちゃん』ってわたしが言われてたのは昔のことだし、それに名前的にまっちゃんの人がまっちゃんのこと『まっちゃん』って呼んじゃいけないって法律はないよね。なのになんでまっちゃんはまっちゃんのこと『まっちゃん』って呼んじゃいけないって言うの? わたしの名前が『まっちゃん』だからといって、わたしががまっちゃんのこと『まっちゃん』って呼ぶのを止めさせようとするなんて、間違ってるよ。わたしはまっちゃんのことを『まっちゃん』って呼びたいから『まっちゃん』って呼んでるだけで、まっちゃんはまっちゃんがまっちゃんのこと『まっちゃん』って――――」
「――――いや、もういいから」
俺は矢継ぎ早に飛び出す井上の言葉を、掌を突き出し制した。
余った手で不自然に痛くなったこめかみの辺りを押さえる。
まっちゃん、まっちゃん、うるせぇよ。
これは新手の呪いか?
耳に『まっちゃん』って幾重にも彫られたタコができたらどうしてくれるんだ。
「お前が俺のこといつも『まっちゃん』なんて呼ぶから、俺が周りにいつも『まっちゃん夫妻』ってからかわれてるんだよ。いいのか? 周りにそんなこと言われて」
「………………」
井上は俺が置かれている状況に思いもよらなかったようで、思考が止まったかのように固まった。
やがてボッと音がしそうなほどの勢いで、赤面する。
それを隠すように井上は頬を両手の平で覆うと、くねくねと体を揺らし、恥ずかしそうにボソリと、小声を漏らした。
「……それはそれで、ちょっとありかも」
いや、なしだよ。
若干頬を染めている井上とやれやれと首を振る俺のところへ、鞄を持った蕗野がやってくる。
「夫婦(めおと)漫才は終わった?」
こら、誰が夫婦漫才だ。
幼馴染とのやりとりをいちいちからかってくるな。
「もうみんな待ってるよ、行こっ」
蕗野に急かされ、俺は蕗野と井上と共に、校門前に移動した。
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