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この二人は童部兄弟。同じ体形とお揃いの坊主頭が特徴的な双子で、いつも行動を共にしている。寺の生まれらしく躾は厳しいようだが、この二人からそんな様子を感じられたことは微塵もない。
俺は、その童部兄弟の様子を近くで、しかし遠い目をして見ている男に尋ねる。
「この二人、何してるんだ?」
「え? あぁ、なんか、新しく転校生が来た時に向けて自己紹介の練習だって。転校生が来た時にバシッと決めれるようなりたいんだってよ」
「でも今2年生の5月だぞ?」
常識的に考えて、こんな時期に転校生なんてまず来ないだろう。
「そうなんだ。おれもそう言ってるんだけど、聞く耳持たなくてさ」
彼はそういうと、アメリカンポップコメディドラマに出てくるアメリカ人のように肩を竦める。
そんなことを話していると、童部兄弟が寄ってきた。
「もしものときに備えて練習」
「いざというとき待ってはくれない」
「早めに準備して損はない」
「備えあれば憂いはない」
そう言うと二人は離れ、また自己紹介の練習を始めた。
その二人を見て、俺はポツリと漏らす。
「無駄な努力だろうな」
「まぁ、いいんじゃない? 本人たちが満足できれば」
そりゃそうだろうけど。
おっと、そういえば……
俺は改まって彼に頭を下げた。
「そういえば、ちょっと遅くなった。ごめん、面目ない」
「ん? あぁ、まだ全員揃ってないからいいよ」
「ところで、お前は何をして待ってたんだ?」
「あぁ、暇だったんで、校門を通っていく女子のスカートが風で揺れてるのを見てた」
平然と言うこの男に、俺は首をかしげる。
「お前、そんなところに趣きを感じるタイプだったか?」
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