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でもまぁ確かに、そうなっても仕方がないのだろう。
これならばたびたび耳にするモデルにスカウトされたが断ったという噂も、あながち間違いではないのかもしれない。
ここにいる皆は、おそらくそんな夢原さんを見ているのだろう。
だが、俺が見てるのは、彼女じゃないんだ……
皆がそんな夢原さんに視線を注目させている中、俺はおそらくただ一人、その隣で笑顔で夢原さんの話に相槌を打つ女友達に目を向けていた。
彼女の名前は村雨(むらさめ)菊(きく)。長い黒髪に陶器のように滑らかで白い肌。表情に合わせ動く柔らかい眉を中心に、朗らかな顔立ち。その屈託のない笑顔からは純真無垢な様子が感じ取られる。まさに清楚を形にしたような女性だった。
彼女はいつも学校一の美人と言われている夢原さんと共に行動しているため、あまり注目されてはいないのだが、しかし夢原さんと並んでも決して見劣りしておらず、むしろ夢原さんに嫉妬や嫌悪を抱かずに肩を並べて付き合える、唯一の女性と言っても良いだろう。
そして、俺が初めて廊下ですれ違った際に、ついうっかり一目惚れしてしまった相手だった。
初めて彼女を見たときの、窓から指す日光に照らされ、歩く速さに合わせてサラサラと輝く黒髪に、バラついた髪を耳にかけるその仕草。どこか遠くを見ているようで、しかし少しの濁りもないその瞳。プ二プニと弾力のありそうな美しい唇。何の混ざりっ気も感じられない前向きな笑みを、俺は未だに忘れることができなかった。
ちなみに現段階では話したことどころか、接点を持ったことすら一度もない。
何でもいいから、いつか接点ができないかな。
校門付近にいた生徒が校門を通り過ぎて行った夢原さん(と俺の場合は村雨さん)の余韻が感じられる中、蕗野が俺の後ろから声をかけてきた。
「やっぱり美人だね、村雨さん」
「……あぁ」
俺は力強く頷いた。
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