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身を守る盾のように乱暴に俺の襟首を掴み、助平の方へ突き出しながら、身をかがめて助平に対峙した。
「やめてよ! それ以上近づいたら、しばきあげるわよ!」
「どうして逃げるんだい? わたしもあぁいう風に愛されたいっていうから、立候補したのに」
「あんたに捕まったら、何されるかわかったもんじゃないじゃない!」
ひでぇ扱いだな。助平も俺も。
助平は下心に身を任せているのか、激しく拒絶する井上に対し抵抗を見せる。
「大丈夫。舞ちゃんはいい女だよ。俺も紳士だし、もし抱かせてくれたら――」
「――あんたは一辺、惨たらしいほど酷い目に合え!」
井上に棘だらけの言葉をぶつけられ、ガクッ膝をつく助平。
これ、今既に充分酷い目に合ってるよな?
「傷ついた! こんな酷いこと言われた可哀想なおれを慰めて、愛ちゃ――」
「――――お前ぶっ殺すぞ!」
大袈裟に泣きながら音無さんに近寄る助平の前に、鬼のような形相となった天飛が立ちはだかる。
涙目で天飛の服を掴みながら陰に隠れる音無の前で、仁王立ちの天飛がポキポキッ指を鳴らした。
助平は滝のように涙を流し、あからさまに肩を落とす。
「なんで俺ばっかり、仕方ない。もう蕗野でいいわ。蕗野~」
寄ってきた助平に対し、蕗野は表情を歪ませる。
「僕は男だよ」
「もう可愛かったら何でも良い」
「可愛いとか言われても、僕は全然嬉しくないんだけど……」
助平に撫でられ心底不愉快そうにする蕗野の表情に、他の人は腹を抱えて笑った。
童部兄弟もそれを見て動き出す。
「我もみんなが羨ましい、良運」
「奇遇だな、我もだ、幸運」
「我も人の温かさを感じたいものだ、良運」
「では、我の胸に飛び込んでおいで、幸運」
「我のことすべて受け止められるのか? 良運」
「我は貴のことを誰よりも知っているのだぞ、幸運」
「良運!」
「幸運!」
童部兄弟が男らしくガシッと強く抱き合った。
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