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もし人間どもが、ゴマ入りクッキーなどというモンを作り出さなかったなら、ワシの生き様というモンも大きく変わっていたと思うよ。
ワシが、このクッキー生地に包まれて、かれこれ四十年になろうとしておる。
この製菓会社の創業以来ということになるかの。
周りにいた奴らは、どんどん入れ替わっていってな。
色んな奴らに出会ったもんだが、だいたいが二、三日で見えんようになる。
一ヶ月も居続ければ長い方だよ。
まぁ、それが普通なんだろうな。
四十年も残ってるワシの方が、特殊なんだと思うよ。
どういう訳か、ワシは、いつも選ばれそこねてきたんだなぁ。
直径三センチほどの丸い型抜きの外側に入るか、内側に入るかで、その後の扱われ方が大きく変わってくるのだよ。
ここの職人は、クッキー生地を縦二十八センチ、横三十七センチくらいに伸ばす傾向があるようだ。
この大きさは、創業以来の慣わしのようで、後継者の職人たちは、忠実にこの教えを守り続けておる。
型は、およそ五ミリ間隔で抜かれる。
つまり、縦に七枚、横に十枚、合計七十枚のクッキーが、この大きさの生地 から抜かれるわけだ。
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