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奇跡の数式
恐らく僕らは、この世界に生まれた瞬間、個体数としては【1】と数えられる。
ただ、生きていく上では、【0.5】。
つまり、【半分】なのだと思う。
そう思い始めたのは、まだ小学生の頃だった。
その頃の僕は、歴史の漫画に填まっていて、毎日のように図書室に通っては、静かな部屋で読み、数冊借りては帰る日々を送っていた。
本の中の登場人物は、とても偉大。
その時代を動かした英雄。
でも、彼らもいずれ、この世を去る時が来るという現実。
いずれは、僕も……そう実感したときの、何とも言えない恐怖を感じたことを、今でも覚えている。
人は産まれて、いつかは旅立つ。
永遠がないのが、生をうける……ということなのかもしれない。
生き続けるためには、【1】でいては成立しなくなる。
それに気づいたのが、20代。
周りが結婚をし始めた頃だった。
正直、そこそこの企業に就職した僕は、このままでも充分一人で生きていける。
そう思っていた。
家事も一人でこなせるし、生活に不自由はない。
ただ一つ、何とも言えない空白が、胸の中で存在をアピールするかのように、ドンドンと広まっていくのを感じ始めた。
一体、これは何なのか……。
答えは見つけられないまま数日を過ごしていると、学生時代からの友人が連絡を寄越してきた。
「ん?……ブログを見て……? いきなりなんなんだ?」
寝起きのままパソコンを立ち上げ、彼のページを開くと、そこには可愛らしい奥さんと、産まれたばかりの赤子の姿。
「そうか……こいつも、人の親になったんだな……昔は鼻水垂らしてたのに」
そして、スクロールし、次の写真を見たとき目を丸くした。
友人と奥さん、赤子の三人で映っている写真に、とある数式が見えた。
「これは……参ったなぁ……」
僕の目の前に降りてきた数式こそ。
【0.5+0.5=1】
一人の命を、この世にもたらす奇跡の数式。
僕らはみな、誰かの【1】として産まれ、誰かの【0.5】として生きる。
まだ見ぬ、かけがえのない【0.5】と出会い、【1】という奇跡を授かるために……
END
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