奇跡の数式

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

奇跡の数式

恐らく僕らは、この世界に生まれた瞬間、個体数としては【1】と数えられる。 ただ、生きていく上では、【0.5】。 つまり、【半分】なのだと思う。 そう思い始めたのは、まだ小学生の頃だった。 その頃の僕は、歴史の漫画に填まっていて、毎日のように図書室に通っては、静かな部屋で読み、数冊借りては帰る日々を送っていた。 本の中の登場人物は、とても偉大。 その時代を動かした英雄。 でも、彼らもいずれ、この世を去る時が来るという現実。 いずれは、僕も……そう実感したときの、何とも言えない恐怖を感じたことを、今でも覚えている。 人は産まれて、いつかは旅立つ。 永遠がないのが、生をうける……ということなのかもしれない。 生き続けるためには、【1】でいては成立しなくなる。 それに気づいたのが、20代。 周りが結婚をし始めた頃だった。 正直、そこそこの企業に就職した僕は、このままでも充分一人で生きていける。 そう思っていた。 家事も一人でこなせるし、生活に不自由はない。 ただ一つ、何とも言えない空白が、胸の中で存在をアピールするかのように、ドンドンと広まっていくのを感じ始めた。 一体、これは何なのか……。 答えは見つけられないまま数日を過ごしていると、学生時代からの友人が連絡を寄越してきた。 「ん?……ブログを見て……? いきなりなんなんだ?」 寝起きのままパソコンを立ち上げ、彼のページを開くと、そこには可愛らしい奥さんと、産まれたばかりの赤子の姿。 「そうか……こいつも、人の親になったんだな……昔は鼻水垂らしてたのに」 そして、スクロールし、次の写真を見たとき目を丸くした。 友人と奥さん、赤子の三人で映っている写真に、とある数式が見えた。 「これは……参ったなぁ……」 僕の目の前に降りてきた数式こそ。 【0.5+0.5=1】 一人の命を、この世にもたらす奇跡の数式。 僕らはみな、誰かの【1】として産まれ、誰かの【0.5】として生きる。 まだ見ぬ、かけがえのない【0.5】と出会い、【1】という奇跡を授かるために…… END
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!