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二杯目のコーヒーを飲み干して、カップを置いた彼女が、そっと呟くように言う。
「私ね。彼が死んで、私も死のうと思ってここに来たの」
やっぱりそうだったんだ。不思議なことに僕には分かっていた。もちろん、それを止める権利は僕にはない。彼女が苦しみから逃れようとしているのを止めようという気はなかった。それでも、何故か一緒の空間にいたいと思った。
きっと、僕は彼女に魅せられているのだろう。
「実は僕もなんですよ。僕は失恋して、仕事も上手くいかずに逃げてきたんです。死のうと思ってここに……」
僕も正直に話した。彼女は何も言わず優しい頬笑みを見せてくれた。
彼女は暗くなった外を眺める。僕の視線も外を向いているけれど、見ているのはガラスに映った彼女だ。
ガラスを反射して僕らの視線が合う。
「来年、夏になったら二人でここに来ましょうよ」
「ええ、僕でよければ」
きっと、僕たちはお互いの傷を癒すために出逢ったのだろう。そして、お互いを必要なのだと思う。
こうして、僕らの静かな恋ははじまった。
~海岸の二人~ 完
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