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母はこの島では日本海の魔女と呼ばれている。資料部屋の棚にはドクダミやセンブリの薬草、アルコール漬けのヤモリ、トナカイの角とミツバチが集めた花粉で作った精霊と妖精の粉が瓶詰されてあった。
『自分の命と引き換えでもいい。神様、お願いです。もう少しだけ母を生かしてあげてください』
星空を見上げていたらつい感傷的になり、そんな願い事をしてしまった。
恒世は母の不気味な笑みが気になっていたが、死の宣告をされた年寄りに何ができるものか?
魔女と言っても、優秀な占師に過ぎない。
モルヒネで頭がおかしくなってるんだ。
その証拠に母は薬を飲むとすぐに寝てしまった。
それで恒世はベッドの横の椅子に座って、自家製の葡萄酒を飲みながら本を読んでいた。
そしてうとうとそのまま眠ってしまった。
「嘘だろ?」
眩しい朝陽に目が醒めると、なぜか恒世が母のベッドに寝ていた。
「なんで僕がベッドで寝てるんだ?」
しかも、お腹から背中のあたりに激痛が走った。
その痛みで身体が起こせない。
「お母さん。どこだ?」
「あら、やっと目が覚めたの」
母はキッチンで料理をしていたのか、フライパンを持って寝室に顔を出した。
「何やってんだ?」
「お腹すいたから、朝ご飯食べようと思ってね。コウセイも食べる?」
「ガンのくせに。何してんだよ。もう、水しか飲めなかっただろ?」
「それが、食欲あるのよね」
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