遭遇と独占欲

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「中座して申し訳ない」 個室に戻り、何事もなかったように席に腰かける。 僕の顔を見つめる香子の視線を正面から受け止めたが、相手が相手だけに、この五分間の揺らぎを見抜かれそうで内心は気まずかった。 少なくとも、僕があの席に行ったところは見ていたはずだ。 しかし香子は特に何も言わず僕ににっこり笑い返すとバッグからポーチを取り出し、立ち上がった。 「荷物番しておいたわよ。私もちょっと失礼」 香子もなかなかの演技者だけに油断はできないが、とりあえずいきなり突っ込まれることはなかったので僕は安堵しながら彼女の背中を見送った。
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