1928人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういうのじゃない」
「あら、でも佑人ったらまるで女を担いでさらう野蛮人みたいな勢いだったわよ」
短く否定しただけで言葉を切ったが、香子はいつになくしつこく、しかも痛いところを的確に突いてくる。
この話題を続けたくないという僕の意思表示は感じているだろうに、それでもずけずけと踏み込んでくる香子がにわかに鬱陶しくなった。
「契約だよ」
「契約?」
僕の恋愛感情とその相手に興味を持たれたくなくて、僕はそれらを否定するため迷子に協力していることを手短に説明した。
しかしこれは卑怯で迂闊だった。
僕は香子を甘く見ていた。
離婚直後なら男は懲り懲りだろうし、特に僕のような優しくない男には敢えて踏み込んで来ないだろうと。
香子と彼女にはほぼ接点がないし、あったとしても香子が迷子に近づくほど執念を抱いているとは思わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!