庭師

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「庭師、どこにいますか?」  庭園のどこかにいるであろう庭師に、執事は呼びかけた。だが、返事はない。彼は記憶領域にあるマップを頼りに、庭を探し始めた。歩く度に、草を踏む音が心地よく鳴った。  彼は庭師のことをよく知っていた。彼女(ここでは女性型もまとめてアンドロイドと分類する)は、お嬢様が幼少の頃から一緒に暮らしていた機体だ。稼働年数は執事より上だ。  彼女はお嬢様の遊び相手と、庭の手入れを任されてきた。遊び相手に任命された理由は簡単だ。当時の家の庭がもっと小さく、今のように日がな一日外に出る必要がなかったからである。 (ここにもいない。となると、あそこでしょうか)  彼女が丹精込めて刈り込んだ兎や熊の形の植木を横切り、執事はある一点に向けて歩く。すると、どこからともなく楽しげな鼻歌が聞こえてきた。よく通る女性の合成音声だ。  『庭師』は一本の林檎の樹の前にいた。彼女はかたちを為し始めた林檎を興味深げに見つめていた。 「庭師、やはりこちらでしたか」 「おーっ、執事の坊ちゃん! ハッキング食らってから偏頭痛患ったってマジ?」     
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