庭師

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 陽気な声で呼びかけて、庭師は手を振った。彼女は白いブラウスの上から地味なオーバーオールを着こんでいる。肩まである明るい金髪に対して、曇天模様のような灰色の瞳が目立つ。葉っぱのついた麦わら帽子を被っている彼女は、明るい笑顔を見せている。  ただ、アンドロイドの整った顔に、斜めの大きな傷がひとつついていた。傷は彼女の内側にある金属の枠を見せていた。それが彼女の美しさに、少しの陰りを与えていた。 「誰にも開示していないはずの情報なのですが」  執事は視線を右に向けて、右のこめかみに手をやった。  確かに、以前の工場跡での一件から、彼の感覚は時折、頭の痛みと視界のノイズを示すようになっていた。都度程度は違うにしろ、発作的に起こる症状は執事にとって決して楽な状態ではなかった。 「庭師ちゃんは地獄耳だから、君とお嬢様のことならなんだって知ってるさ」  庭師は道化の仕草で帽子を取り、お辞儀をした。すると、小さな薄茶の兎の耳を模したパーツが露わになった。兎の耳を軽く動かし、麦わら帽子を被り直すと、彼女は手に持っていた大きな鋏を地面に立てた。 「それで僕に何用?」 「お嬢様がお呼びです。調整室でお待ちですよ」 「ほーん。この間の工場の一件から、ずいぶん活発だねえ」
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