秤の上で水平に

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「非論理的な感情表現をしてしまったわ。ごめんなさい。それで、本当に覗き趣味というわけでもないでしょう?」 「そりゃ……旦那様と奥方様にゃァ、恩義がありますから……。その点、先日の件は本ッ当に旦那様と奥方様に顔向けできないって言いますか……」  庭師はついに真面目な顔になり、オーバーオールのよれを直してぴしっと背筋を正した。 「えー、ご存知かと思いますが、僕だけは、この街の――『魔女』のアンドロイドではありません。ええ……捨てられていたところを奥方様と旦那様に拾われまして、『庭師』になった次第でございましてね」 「ええ、知っているわ。あなたは『庭師』じゃなくて、どこかで失敗した『諜報員(spy)』だってこと」 「そうです、ぼかぁ元はといえばヘマこいた諜報員です。ですが、お嬢様と息子同然の坊ちゃんに関しては下手打つわけにはいかなかったんです」  一歩前に出て、真剣な顔で庭師は拳を握りしめた。その灰色の瞳に感情の熱が灯ったのを見て、お嬢様は軽く目を見開いた。 「でもお嬢様は、機械の思考に介入すると怒るでしょ。だからハッキングはせず、こうして、盗聴器でお嬢様と坊ちゃんの動向を探って……」     
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