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庭師
アンドロイドと人間がとても近くなってから、もう何年も過ぎた。
しかし、アンドロイドは時折思い出すらしい。
「執事(butler)、いる?」
「こちらに、お嬢様」
難しい顔で一階のロビーをうろついていた『お嬢様』が、大き目の声で呼びかけた。
二階で小型の機械たちと床の手入れをしていた『執事』は応え、階段を降りていく。金属板でできた階段は、彼の革靴で軽快な音を立てる。
やって来た執事の姿を認めると、お嬢様は喜んだ様子で駆け寄った。彼女のひざ丈で、黒いドレスのフリルが揺れる。
「執事。庭に行って、『庭師(gardener)』を呼んできてくれないかしら」
「かしこまりました」
今日もお嬢様はひとのかたちをした機械たちと、彼らが作った機械屋敷で暮らしていた。この屋敷に、お嬢様以外の人間はいない。
執事は玄関に向けて歩き出し、立ち止まった。彼は振り返って、お嬢様の顔を見た。お嬢様は執事と目が合うまで、難しい顔をしたままだった。
「どちらに向かわせればよろしいですか?」
「調整室で待っているわ」
頷いて、執事は改めて玄関の扉を開いて外へ出た。今日は抜けるような青空が広がっていて、刈り込まれた草木は鮮やかな緑に輝いていた。
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