プロローグ

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   酒々井家の家政婦 鈴音は、その日も朝から庭の清掃を始める。  千葉市稲毛区内にある、とある平屋の日本家屋。豪邸と呼んでいい程、見事な屋敷と庭が彼女の目の前に広がっていた。  鈴音は、まだ二十代を折り返したばかりだろうか。いくら若いとはいえ、彼女一人では手に余る程の庭の広さ。定期的に清掃業者が入るから、鈴音としては朝の庭掃除に力を注ぐ事も無い。しかし、四季折々に花を咲かせ色付く木々は、時期ごとに花びらや枯葉を落とす。  春先や秋口ともなれば、それこそ庭掃除が大変となろう。ただ、今は初夏の季節という事もあり、庭に花びらや落ち葉は見られない。 「夏場は暑いけど、ここのお庭なら日陰も多いし風も通るから一番楽かもね」  鈴音は鼻歌でも歌うかのように、今の言葉をメロデイに乗せて呟いた。  一見すると、見事で広い日本庭園。庭全体のバランスに目を奪われ、一部分に目を向ける者は少ない。
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